[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

出稼ぎ労働者の光と影

インタープレスサービス(IPS)2000年7月19日
http://www.ipsnews.net/jp/07/19.html


(7月11日)
ニエン・ナム・フォン著
【ハノイIPS】

 裕福な国に労働者が出稼ぎに出る「労働輸出」に関して、ベトナムは他のアジア諸国に後れをとっていた。しかし、ベトナム政府はこの状況が変化することを希望している。

 ハノイの政府が期待しているのは、労働輸出が、増加する失業者を抱えるベトナムの負担を軽減し、貧困対策になるということだ。海外で働くベトナム人労働者の数を向こう数年間で増やす計画が進められている。海外に労働者を送り出すうえで考えなければならないのは、貧しい労働者が出国するに際して借金を背負うことと、海外で搾取の対象になりやすいことだ。

 昨年、ベトナムからは約2万2000人が海外に出稼ぎに出て、2億2000万ドルを本国に仕送りした。彼らの多くは、ラオス、日本、台湾、韓国、リビアなどで働き、建設作業、港湾、食品加工、農業の分野に従事している。

 ベトナムの労働・傷病軍人・社会事業省は今年に送り出す海外出稼ぎ者の目標を3万人に設定し、2005年までに40万〜50万人が常時海外で働いている状況を作り出したいと考えている。そして10年間後には100万人になることを計画している。現在、38カ国でベトナム人が働いている。

 ファン・バン・カイ首相は「海外に労働者を送り出すことは、雇用問題、とりわけ若者の雇用状況を改善するために重要な政策だ」と語っている。実際、人口7700万人のこの国で、失業は深刻な問題になりつつある。労働・傷病軍人・社会事業省は1998年の失業率が6・8%だったが、昨年は7・4%にまで上昇したと指摘している。

 失業者が増加したのは、国内総生産(GDP)が落ち込み、外国投資が減少したことによる。さらに行政改革も失業問題に影を落としている。というのも、政府は公務員給与を15%削減し、損失がかさむ国営企業の余剰労働者の解雇を計画しているからだ。

 だが、ベトナムでは人口の70%以上が農村で暮らしており、失業対策は長期的に考えなければならない重要な課題だ。地方の農村の人口が膨らむ一方で、農地に利用できる土地が少なくなりつつある。失業者が全国的に広がった結果、都市への移住者が増えている。

 政府が労働輸出の対象としているのは、若年の未熟練労働者だ。外国の雇用先はベトナムからの未熟練労働者に高い賃金を払わなくてすむが、他国からの労働者よりも熟練度が劣り、外国語を理解できないことは、ベトナム人労働者にとって大きな障害となっている。こうした障害は既に、労働輸出の課題となっている。観光客船向けに従業員を派遣する国営企業「サイゴンツーリスト」は、最近需要を満たすことが出来なくなった。

 この企業は今年3月末に500人を派遣する予定だったが、17人しか採用できなかった。同社は地元紙に対して「就職を希望する人が劇的に落ち込んだ」と話した。社員の採用条件が厳しいのが原因だ。まず健康に優れていることと、年齢の条件がある。さらに英語が堪能で、ホテルなど観光業界での経験が必要だ。

 同社に採用されると、1週間働きづめになるが500ドルの月給がもらえる。さらに年間2カ月の休暇を取っても1カ月分の給与が保証される。このため、平均年収が170ドルにすぎない地方のベトナム人にとって魅力ある仕事なのだ。

 だが多くの就職希望者は求められる資格を持っていない。さらに、就職するに当たって、初期投資が必要で、それに耐えられない。海外で職を求める人は就職の斡旋をする地元企業に2000〜3500ドルを支払わなければならない。この費用には通常、土地の所有権、保険などのデポジットが含まれている。さらに、パスポート、健康証明などの支払いも必要だ。この費用はあまり安くはない。

 そして何よりも問題なのは、海外で得た収入に10%の付加価値税がかけられることだ。就職を斡旋した業者も契約額の12%を受け取る。ある斡旋業者は次のように語った。「貧しい人々には負担だろう。だが、2〜3年たって契約期間が終われば、彼らは借金を返済しても7000〜1万ドルを手にして故郷に帰ることができる」

 こうした斡旋業者を取り締まらないと、政府の労働輸出は成功しない、と指摘する声もある。既に、地元紙には斡旋業者が高い値段をふっかけたりするケースが報道されている。

 2月には、就職希望者から総額6万ドルを盗んだ斡旋業者が、ハノイの人民裁判所で終身刑を言い渡された。この業者は、台湾、日本、韓国、ドイツで働かせると嘘を言って、100人からお金をだまし取ったというものだ。

 ベトナム政府は最近、私企業に労働提供業務を認める決定をしたが、これにより、労働者が搾取される危険がさらに高まった、との懸念も出ている。またいったん海外に出てしまうと、労働者はほとんど保護されない。海外から帰国した労働者からは、搾取されたと不満を述べる声も聞かれる。

 先月、家政婦として台湾に送られた300人のベトナム人のうち30人が、殴られたり、性的に嫌がらせを受けたという話が新聞で報道された。ある女性は「デポジットとして2650ドルを払ったが、一文無しで帰国する羽目になった。1日に19時間働かされたうえ、食事も満足に与えられず、日常的に殴られた。そして斡旋業者から健康上の問題を理由に無理矢理、辞めさせられた。私の家族は借金を抱え込んで途方に暮れている」と訴えている。

 これに対して、斡旋業者は、彼女の申し立てを否定し、デポジットは全額返したと主張している。そのうえでこの業者は「契約を解除して辞めたのは女性の方に問題がある。彼女たちは言葉が分からないために、台湾での生活になじめなかった。そして帰国する言い訳のために、嘘の申し立てをしている」と反論した。


END