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ベトナム:自国の有名ブランド商品を守れ
急がれる特産品の商標登録推進
日本での“盗用”騒ぎがきっかけ
魚醤油などの輸出に大きな損害


インタープレスサービス(IPS)2003年5月12日
http://www.ipsnews.net/jp/2003/05/12.html


 市場経済への参入にまだ日の浅いベトナムでは、中小企業の間に商標登録という“自己防衛”手段がまだ根付いていない。このため、ベトナム特産の食品や調味料、さらにコーヒーなど長年にわたり庶民に親しまれてきた「人気ブランド」が、いつの間にか、日本などの外国企業により第三国で商標登録され、その結果、本家が自己の「人気ブランド」名で輸出できなくなるケースが相次いでいる。こうした被害をなくすため、今、ベトナム政府や財界が中心になり、同国企業に商標保護に向けた啓蒙活動を展開している。

 【ホーチミンIPS(チャン・ディン・タイン・ラム記者)】コメから作られる「バイン・ゼ」は、ベトナムの庶民が好む食べ物だ。幾つもあるメーカーのうちで最も有名なのが「ゴク・リン」一家が製造、販売するもの。このため「バイン・ゼ」と言えば「ゴク・リン」製を指すほどになっている。

 その「バイン・ゼ」の本家・ゴク・リン一家を驚がく、落胆させる騒ぎがこのほど起きた。同一家が「バイン・ゼ」を「ゴク・リン」の商標で日本に輸出しようとしたところ、「ゴク・リン」が既に日本で商標登録され、同名での輸出ができないことが判明したからだ。

▽商標への理解欠如で大痛手

 日本では今、タイ料理を筆頭に東南アジア諸国の料理に人気が集まっており、ベトナム料理に欠かせぬ「バイン・ゼ」も若者らの間でヘルシーな食べ物として好まれている。これを知った日本の業者が「バイン・ゼ」の代名詞ともされるほど有名な「ゴク・リン」の名を商標として登録してしまったのだ。

 既に数十年にわたって「バイン・ゼ」を作り続けている「ゴク・リン」一家は、顧客らの善意を信じ、商品登録はしてこず、これまではその必要もなかったのだ。

 「『ゴク・リン』が日本で商品登録されていたと聞き、耳を疑うほど驚きました」と話す一家の関係者は、数カ月前の出来事を苦々しく思い出した。それは日本からの観光客の一行が「ゴク・リン」製造工場を訪れた際のことだ。工場を見学していた一行が「バイン・ゼ」の製造過程をビデオカメラに収めてもいいかと尋ね、許可を出してしまった。

 気がよく、何の疑いも抱かなかった「ゴク・リン」一家の人たちはビデオ撮影の許可だけでなく、同一家製の「バイン・ゼ」が持つ独特の味や香りの詰まったサンプルまでも提供してしまったのだ。

▽二の舞を演じるな

 一家が総出で商売する業者が多いベトナムで、商標登録の意味を正しく理解せず、その手続きをしていないのは「ゴク・リン」一家だけにとどまらない。長年にわたる商売の中で、自分たちの商品が庶民や卸し業者らの間に根付いていると思い込んできたからだ。

 しかし、生存競争の厳しい商業分野で重要なのは知的所有権の保護・確保であり、残念ながら今回の「ゴク・リン」は、繰り返しを避けるべき“模範”的な「失敗例」となってしまった。

 商標問題の危機にさらされているのは「ゴク・リン」の例だけにとどまらない。ベトナム料理には欠かせぬ調味料といえば「ニョクマム」と呼ばれる魚醤油。ベトナム南部のタイ湾に浮かぶフーコク島で作られるニョクマムが最良とされる。また、世界への進出が著しいベトナム産コーヒーの「ブオン・マ・ツオット」(バンメトート)、果物では「ホア・ロク」マンゴー、コメでは「ナン・フオン」米――などが、世界の市場から狙われる商品となっている。

 ホーチミン市でこのほど開かれた「商標問題協議会」の席上、ベトナム商工会議所のブ・ティエン・ロク副会頭は、こうした商品は名を知られているだけに、今後世界に進出するには、商標登録が不可欠だと強調した。

▽成果ない商標奪回提訴

 また、科学技術省幹部も「商標登録なしに世界に進出すれば、必ず問題が生じる。ベトナムのタバコ会社ビナタバが、インドネシアのタバコ会社に商標を先に奪われてしまった。インドネシアの会社はカンボジアなど12カ国で商標登録を行った」と最近の例を紹介した。

 これに対しビナタバは異議申立てを行い、カンボジア政府がこれを認め、インドネシア側の商標登録を無効としたが、他の諸国については「梨のつぶて」状態という。

 コーヒー製造会社を経営するチュン・グエン氏の例では、同社の商標が外国で登録され、日本や米国などでは同社名を冠したコーヒー店ができていたが、異議を申し立てた結果、これが認められ、商標取り戻しに成功した。

 しかし、これはあくまでも例外であり、通常は「フーコク魚醤油」が味わっている厳しい例の方が多い。

▽在外のベトナム人がターゲット

 フーコク魚醤油は、多のベトナム産品ととともに米国市場への参入を図ったが、いずれの特産品も輸入禁止措置に引っかかり、目的を果たせなかった。さらに、タイの業者がフーコク魚醤油の知名度に目を付け、これを米国と欧州連合(EU)で商標登録してしまった。

 米国やフランス、さらにボートピープルを移民として受け入れたオーストラリア、カナダには多くのベトナム人が住み、ベトナム人社会を形成している。この中で出回る魚醤油は商標が「フーコク」でも、本場物とは味の違う製品であり、ベトナム人たちは「似て非なる」魚醤油を仕方なく買う羽目に陥っている。

 「フーコク魚醤油」会社は、これらの諸国で商標奪回に向けた訴訟を起したが、今のところいずれも成果が出ていない。

 そうした中、世界的な食品・家庭用品会社ユニリーバ(英国・オランダ)で、同社は「フーコク」の商標を買い取り、クノール魚醤油にこの有名な商標を付けている。しかし、これは極めて珍しい例で、他の諸国では商標が無断盗用され、大きな損害を受けているのが現状だ。このため、ベトナム商工会議所幹部は「政府も商標奪回に本腰を入れて協力すべきだ」と訴えている。

▽期待される政府の積極支援

 とはいえ、「ゴク・リン」と「フーコク」の例を前に、ベトナム政府・産業界は今、知的所有権の保護・確保の大切さを徐々に認識し始めている。その表れのひとつがこのほど発表された貿易省決定だ。同省は4900億ドン(約58億円)を投入し、食料、飲料、製靴、衣料、繊維、家具・民芸業界の大手企業が行う商標登録への支援実施を決めた。

 対象は年間輸出額が50万ドル(約6000万円)以上の企業で、製品は「ベトナム優良品」との認定を受け、世界市場への一掃の進出を目指すことになる。例えば、同国産コーヒーはブラジルやコロンビア産に比べ品質に差はないものの、価格差がつけられている。「ベトナム優良品」認定が価格差是正に役立つことが期待されている。

 商工会議所幹部は最後に、「『ゴク・リン』の二の舞を防ごうとする政府の努力は評価できる。だが、それ以上に必要なのは各企業が自社製品の品質向上に、今以上の力を注ぐことだ」と忠告している。

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